新しいトークボックス・サウンド
ロジャーが持って来たセットは非常にシンプルで、Minimoog、JBLのコンプレッション・ドライバー、パワーアンプはBryston 4B直結でね。確か200W以上はあったと思います(笑)ロジャーに何度かやらせてもらったんですけど、すっごい音量でしたよ(笑)どうやってやるのと聞くと、ロジャーはMinimoogのフリケンシー・コントロールをうまく使って音程をコントロールし、レゾナンスが強過ぎちゃうと固い音になってしまうと言っていましたね。でもね、結構練習しているみたいでしたよ。と言うのも、Minimoogにマーキングが凄かったですもん、これは何だって思うくらい。ノブが行き過ぎない様にって感じでほとんどマーキングされていて、きっと几帳面だったと思います(笑)知っている所はとても細かい。でも知らない所は取りあえずみたいなね(笑)

ギャムソンがトークボックスを録音する時にいつものやり方と変えてみようと提案してきたんです。ギャムソンのアイディアで新しい機材や発想が出てきて、 EmotionsのトークボックスにはProphet 5を使ったんです。その他の曲でOberheime ExpanderやOberheime OB-Xも使ったはずです。そして、Emotionsではトークボックスをポリフォニックで演奏(最初のポリフォニック演奏はComputer Loveのshoo be doo wopパート)したんです。だからいつものサウンドとは違うんですよ、特にEmotionsは。ポリフォニックなトークボックスを駆使した非常に美しい和音に、ロジャー本人のファンキーなギターとタイトなリズム/ベースが今でも新鮮で良いですね。
ミックスもプレイヤー
Break Throughでは、マルチバンド・ディレイと言ってLexicon PCM70にしか入っていない特徴的なディレイをトークボックスにかけたんです。ロジャーはこの様な処理をやったことがなかった様で面白かったみたいですね。これは12インチ・ミックスの発想なんです。色んなエフェクトをかけて飽きさせない様にしなければいけませんからね。僕が言うのも何ですが、これは当時のニューヨークでの、最先端のコスモポリタンなリミックス・エフェクトなので、あまりR&Bには必要なかったと言うかね。でもロジャーはそれが新鮮だったみたいです。Bridging The Gapの一番の魅力は、ギャムソンの都会的なプロダクションと僕のミックスでとても鮮麗されたロジャーになっていると思います。

当時は、仕上がったからミックスしてくださいってことはほとんどなく、スタジオにエフェクトやキーボードが置いてあってどんどん足して行くんです。何も足さないで終わればラッキーで(笑)もちろん、仕上がってないわけじゃなく、仕上がっているからミックスするんですけど、ミックス中にどんどん足されて行くんです(笑)当時のミックスでは、エフェクトは今みたいにインサートにかけず、コンソールにバスって書いてあるボタンがあって、そこに15台位のエフェクトを仕込んでミックスを録る時にリアルタイムにボタンを押して行くんです。ある意味ミキサー・エンジニアもプレイヤーなんですよね。